ニュース表8@2019年09月ふたば保管庫 [戻る]

年金に実態以上の過剰な不安を抱く日本人が多い理由
11日04:35頃消えます  5年に一度実施される公的年金の「財政検証」の結果が、8月27日に発表された。今回もマスコミの報道には相変わらずネガティブな傾向が見られたが、実際のところはどうだったのだろうか?

 筆者は発表の当日、厚生労働省の年金部会を最初から最後まで傍聴しており、資料も読み込んでみた。結論から言えば5年前、2014年の財政検証と比べて大きな差はなく、若干改善しているという状況であったと言っていいだろう。

 詳細は360ページを超える報告書に記載されており、その全てを紹介することはできないが、要旨をごく簡単に言えば、以下の3点である。

1.所得代替率は5年前の試算と比較して出生率の増加や労働参加の拡大により、0.2〜0.9%ぐらい改善している。
2.オプション試算によれば、被用者保険のさらなる適用拡大と保険料拠出期間の延長、および受給開始時期の選択拡大は年金の水準確保に効果が大きい。
3.今後も経済成長と労働参加が年金の持続可能性にとって極めて重要である。

 いずれもごく当然のことであり、特段サプライズもなければ問題が生じているわけでもない。言うまでもなく、「財政検証」というのは“将来予測”をしているわけではなく、プロジェクション、すなわち現状の姿を将来に投影するとどうなるかということを検証しているのである。よく言われる「100年安心」という言葉の意味も、「年金は100年間安心だ」ということではなく、「年金の持続可能性の検証をするに当たって、向こう100年間ぐらいの長期を見据えて行う」という意味だ。

 少子高齢化が進むわが国においては、何も手を打たなければ際限なく保険料の負担が増大しかねない。そこで2004年に将来を見据えたさまざまな環境を考慮した上で保険料負担の上限を定め、以後、状況に大きな変化がないかどうかを確認するために、プロジェクションとして5年ごとに「財政検証」を行なっているのである。これが“年金の健康診断”と言われるゆえんなのだ。

 年金に関しては、何かあるごとにネガティブな報道がつきまとう。その理由は一体どこにあるのだろうか?

 筆者は行動経済学における認知バイアス、中でも「代表性ヒューリスティック」と「確証バイアス」にあると考えている。どういうことか、わかりやすく考えてみよう。

・ 小さな不祥事がなぜ年金全体の不信につながるのか

 公的年金には抜きがたい不信感が存在している。それは公的年金という巨大な制度の周りにさまざまな不祥事が存在したからだ。しかしながら、関わる人がたくさんいて、多くのお金が集まれば、何らかの不祥事が起こり得るのは人間の社会では当然のことであり、それが制度の屋台骨を揺るがすようなものでなければ大事に至ることはない。

 例えば、2000年代の初めにかけて起こったグリーンピア(大規模年金保養施設)の問題があった。1985年から資金を投入して13もの施設を作ったものの、結局は採算が合わないまま、2005年までに全て売却された。その損失はおよそ2000億円であったとされる。この時も大々的にマスコミで取り上げられ、ずさんな運営や無計画な投資が批判されたことがあった。もちろんこれは決して許されることではない。金額も2000億円という巨額なものであり、民間企業であれば株主から訴訟を受けてもおかしくない案件だ。

 ただ、2000億円の損失を出したからと言って、年金が破綻するとか、持続性に疑問があるということではない。当時、年金積立金は132兆4000億円あったが、このうち2000億円の損をしたにすぎないからだ。

 身近な例に言い換えると、132万円あまりの貯金を持っている人がパチンコで2000円をすってしまったというのと同じだ。実に無駄なお金の使い方をしたものだと怒られるのは当然だが、だからと言って家計が破綻するわけではない。これは言わばガバナンスの問題であり、財政の構造的な問題というわけではないのだ。年金にまつわる不正使用等の事件が起きる都度、同様の批判が起きるが、それらは一部の罪を犯した人間を厳正に処罰すればよい話であって、そのこと自体と年金の制度に対する不安が直結するものではない。

 ところが人間の心理とは理屈で割り切れるものではない。そのような不祥事が起きると、全体に対する不信感が生じてしまうのだ。

https://diamond.jp/articles/-/213580

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