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元徴用工の「個人請求権」なぜ残る 弁護士ら声明で指摘
12日14:19頃消えます  韓国大法院(最高裁)が戦時中の韓国人元徴用工へ賠償するよう日本企業に命じる判決を再び出した。日本が植民地にしていた朝鮮半島から日本本土へ多くの韓国人が労務動員されたが、政府は1965年の日韓請求権協定で解決したとの立場だ。これに対し、日本での戦後補償裁判に関わってきた弁護士らは声明を出し、元徴用工の個人としての請求権は「消滅していない」と指摘している。声明の呼び掛け人の一人、山本晴太弁護士(福岡県弁護士会)に聞いた。

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 請求権を互いに放棄する条項は1951年のサンフランシスコ講和条約(サ条約)にもある。後に原爆被害者が「条約により米国に賠償請求できなくなった」として日本政府に補償を求めて提訴すると、政府は「自国民の損害について、相手国の責任を追及する『外交保護権』を放棄したもの。個人が直接賠償を求める権利に影響はなく、国に補償の義務はない」と主張した。

 90年代には、韓国人の戦争被害者が日本で提訴し始めたが、政府は従来と矛盾する解釈は取れず、「個人請求権は消滅していない」との国会答弁を続け、訴訟でも「請求権協定で解決済み」とは抗弁しなかった。

 ところが、2000年代に重要な争点で国や企業に不利な判決が出始めると、国は「条約で裁判での請求はできなくなった」との主張に転じた。最高裁も07年4月、中国人強制連行訴訟の判決で、サ条約について「事後的な民事裁判にゆだねれば、混乱が生じる。裁判上では個人請求権を行使できないようにするのが条約の枠組み」と判断した。この判例が日中共同宣言や日韓請求権協定にも適用され、以降、日本の法廷での外国人戦争被害者の権利回復は不可能になった。

 一方で、この判決では「(条約は)個人の実体的権利を消滅させるものでなく、個別具体的な請求権について、債務者側の自発的な対応を妨げない」とも示し、関係者が訴訟以外の交渉で問題解決する道を残した。政府は「解決済み」と切り捨てず、話し合いで救済を目指すべきだ。(聞き手・黄K)

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〈韓国の元徴用工〉 戦時中に朝鮮半島から日本の工場や炭鉱などに労働力として動員された人たち。動員は、企業による募集や国民徴用令の適用などを通じて行われた。当時の公文書や証言から、ときに威嚇や物理的な暴力を伴ったことがわかっている。

 元徴用工への補償は、日韓両政府とも1965年の日韓請求権協定で解決したとの立場だが、不満を持った元徴用工らが日韓で日本企業などを相手に訴訟を起こし、争ってきた。韓国政府が認定した元徴用工は約22万6千人。

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〈日韓請求権協定〉 1965年の日韓国交正常化に伴い、両国間で締結された。日本が韓国に無償3億ドル、有償2億ドルの経済協力金を供与し、両国とそれぞれの国民間で「請求権」の問題を「完全かつ最終的に解決されたことを確認する」と明記した。日本政府はこれに基づき、元徴用工への補償問題は解決済みとの立場。韓国政府も2005年には、協定が定めた経済協力金に元徴用工への補償問題解決の資金も含まれるとの見解を発表していた。

https://www.asahi.com/articles/ASLCN6365LCNOIPE035.html