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「これまでどれだけあほみたいにあそんでいたか あそぶってあほみたいなことやめるので もうぜったいぜったいやらないからね ぜったいぜったいやくそくします」 結愛ちゃんがノートに残した文面だ。わずか5歳の子供が、これほど許しを請うところまで追い込まれていたことに愕然(がくぜん)とする。 首相も関係閣僚会議で「わずか5歳の結愛ちゃんが死の間際、どんな思いでノートにあの言葉をつづったのか。虐待を受けながらも両親の思いに応えようとする幼い心の中を思うとき、私は本当に胸が潰れる思いであります」と語った。この思いを共有しない大人はいないだろう。 結愛ちゃんのように虐待の犠牲になる子供は増える一方だ。児相への児童虐待相談件数は平成28年度は12万件超で、5年前に比べ倍増した。虐待で失われた幼い命は年間80人に上る。 |
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ところが、寄せられる情報は予防に活用されていない。子供虐待などの問題に取り組むNPO法人「シンクキッズ」代表理事で弁護士の後藤啓二氏によると、児相のほとんどは警察に情報を提供せず、抱え込んでいる状況だという。「救えたはずなのに命を救えなかった事件が過去10年で150件あった」と指摘する。 結愛ちゃんも救えたはずの命だった。結愛ちゃんの虐待は香川県で発覚していた。だが、1月に東京に引っ越した後、児相から家庭訪問を受けるも、母親が拒否したことによって結愛ちゃんとの面会は実現しなかった。放置された結愛ちゃんは3月に死亡した。後藤氏は「児相が面会を拒否されたときに警察に電話一本さえすれば、警察官が家庭訪問し、結愛ちゃんを救うことができた」と悔やむ。 警察は、自分たちが持つ情報を児相に提供するが、児相は警察と情報をほとんど共有しない。児相側は、情報が共有されると、児相への相談や通報を躊躇(ちゅうちょ)する人が増え、虐待防止に逆効果になると主張する。警察側も、あらゆる情報を寄せられても対応に困るという。 |
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児相側の主張は親の側に立ったものに聞こえ、警察側の主張は警察の都合の問題に聞こえる。児相を管轄する厚生労働省と警察庁の縦割り行政の弊害の側面もあるが、全件共有に消極的な官庁同士の思惑が一致したような感も否めない。いずれも、第一義的に守るべき子供のことを置き去りにした主張ではないか。 こうした官僚組織の主張を退けてでも、やるべきことをやるために政治的な決断をするのが時の政権の責務だ。首相は「政治の責任において抜本的な対策を講じる」と決意を示したが、政府内は全件共有に難色を示す雰囲気が漂っている。 全件共有は一部の自治体ですでに行われている。高知県は10年前に児相が把握しながら起こった虐待死を受け、警察や教育委員会などの関係機関との情報共有がされている。このほか、愛知県や茨城県などでも始め、今後、埼玉県や岐阜県なども始めるという。 後藤氏によると、愛知県の大村秀章知事(58)は3月、後藤氏の前で担当部長に対し、なぜ全件共有をやっていないのかただした。 |
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部長「児相によると、虐待には程度があって、警察と連携する必要がないものもあるので、全件情報共有は必要ないと言っています」 大村氏「1回家庭訪問しただけで緊急性は低いなどと断定できるはずはないでしょう。子供の命を最優先で、関係機関が幅広く連携するよう検討してください」 全件共有は知事の指示でできる話なのだ。 驚くのは、結愛ちゃんを含む多くの虐待事件によって子供の命が失われた東京都の対応だ。3月の都議会で都は「全件共有の必要なし」との答弁をしているという。都を動かすためにも、政府の強い対応が求められているのは言うまでもない。 愛知県などの自治体のトップが決断できているのに、政府のトップである首相が決断できない理由はあるのだろうか。月内にも開かれる関係閣僚会議で首相が打ち出す対策を注視したい。 (政治部 田北真樹子) https://www.sankei.com/premium/news/180707/prm1807070008-n1.html |